半導体工場、化学プラント、食品工場、空調設備などの冷却システムで中核を担う「チラー(産業用冷却装置)」や冷水循環ラインにおいて、配管内面の防食・防スケール対策は設備の稼働率に直結する重要課題です。
金属配管(炭素鋼鋼管SGPやSTPGなど)をそのまま使用すると、冷水中の溶存酸素や不凍液(エチレングリコール等のブライン)、微弱な迷走電流によって「赤水」「孔食(ピンホール腐食)」「電食」が発生し、数年で継手部やエルボからの漏水事故を引き起こします。
これらの腐食リスクを遮断し、10年以上の長期安定稼働を実現する内面ライニング技術が「ポリエチレン(PE)コーティング」です。本技術コラムでは、チラー配管内面におけるポリエチレン塗装の設計目安、長期の漏水・界面剥離を防ぐ施工基準について解説します。
1. なぜチラー・冷却水配管に「ポリエチレン(PE)」なのか?
チラー配管の防食にはエポキシ塗装や塩ビライニングなども検討されますが、冷水特有の環境下においてポリエチレン(PE)は極めて優れた適性を示します。
水・ブライン(不凍液)に対する完全な化学的不活性
ポリエチレンは極性基を持たない飽和炭化水素樹脂であるため、純水や軟水はもちろん、冷媒として多用されるエチレングリコール水溶液や防錆剤、塩化カルシウム水溶液などに対しても加水分解や劣化を起こしません。
低温脆化しにくい優れた柔軟性(耐冷熱サイクル)
一般的な熱硬化性樹脂(硬質エポキシ等)は冷水(5℃〜10℃)や低温ブライン(氷点下)環境で硬化・脆化しやすく、通水・停止に伴う熱収縮でクラックが発生することがあります。ポリエチレンは低温脆化温度が極めて低く(-60℃以下)、冷熱サイクルに対しても柔軟に追従します。
スケール・スライム付着の防止(流体抵抗の低減)
平滑で非極性な内面塗膜により、水垢(シリカやカルシウムスケール)やバイオフィルム(スライム)の固着を防ぎ、配管内径の狭小化や圧力損失(ポンプ負荷増大)を抑制します。
完全な電気絶縁性による「電食(ガルバニック腐食)」の防止
高い体積抵抗率により、異種金属接触や迷走電流による電気化学的腐食を根本から遮断します。
2. 長期防食を担保する「代表物性スペックと推奨膜厚」
チラー配管の設計において、仕様書や図面に盛り込むべきポリエチレン塗膜の標準的な物性データと膜厚の設計目安です。(JISおよび国際規格に基づく一般値)
① ポリエチレン塗膜の代表物性値(目安)
| 項目 | 代表物性値 | 規格・試験方法 | 現場設計における意味・効果 |
|---|---|---|---|
| ショアD硬度 | 50 〜 65 | JIS K 7215 / ISO 868 | 適度なゴム弾性と硬度を持ち、水流による擦れや異物衝突を緩和します。 |
| 連続使用温度範囲 | -30 ℃ 〜 60 ℃ | 樹脂標準仕様 | 冷水から低温ブライン循環まで、チラーの常用温度域を余裕を持ってカバーします。 |
| 絶縁破壊強さ | 20 kV/mm 以上 | JIS K 6911 | 水中での腐食電流の導通を遮断し、ピンホール電食を防止します。 |
| 体積抵抗率 | 1016 Ω・cm 以上 | JIS K 6911 | イオンや水分子の透過を極限まで抑え、金属界面の酸化を防ぎます。 |
② チラー配管における「推奨設計膜厚」
配管の口径や流体条件(ブライン濃度や流速)に応じて膜厚を選定します。
- ■
一般冷水循環ライン(空調・純水系・中速流体):
推奨膜厚:400μm 〜 800μm(主に静電粉体塗装仕様)
長期の防錆・絶縁性を担保し、管路の圧損を最小限に抑える標準仕様です。 - ■
過酷環境ライン(低温ブライン、工業用水、エルボ・異形管部):
推奨膜厚:1,000μm(1.0mm) 〜 2,000μm(2.0mm)(主に流動浸漬塗装または粉体回転成形仕様)
十分な肉厚バリアを形成することで、水蒸気透過(湿気透過)を完全に防ぎ、10年以上のメンテナンスフリーを実現します。
3. 冷水配管特有の「界面剥離と漏水」を防ぐ設計ポイント
チラー配管において最も警戒すべき不具合は、「施工後数年で端部から冷水が侵入し、塗膜が風船のように膨れて剥離(デラミネーション)し、継手から漏水するトラブル」です。
冷水配管は「管内は冷たく、管外は外気で温かい」という内外温度差に常に晒されているため、塗膜を通過しようとする水蒸気圧(透湿応力)が継続的にかかります。これを防ぐための必須設計は以下の項目です。
① フランジ接合部の「巻き込み一体被覆(シームレス加工)」
直管部内面だけを塗装し、フランジ面で塗装を途切れさせると、ガスケットの隙間から冷水が金属と塗膜の界面に浸入します。
設計対策: フランジのボルト穴手前、またはガスケット当り面全体までポリエチレンを連続して回り込ませる「フランジ巻き込み仕様」を必須とします。ボルトの締結面圧が直接シール材となり、端部からの水分侵入ルートを物理的に遮断します。
② 強固なアンカー効果を形成する「下地ブラスト処理」
金属素地(鋼管)表面のミルスケールや錆を完全に除去し、均一な凹凸を形成する適切なブラスト処理を施します。これにより、冷熱サイクルで金属と樹脂が異なる伸縮を起こしても剥がれない強靭な物理的投錨力を確保します。
③ 均一な熱融着を担保する焼成管理
ポリエチレン粉体を母材金属へ均一に熱融着させるため、管路全体の温度均一性を維持した厳格な焼成プロセスを実施します。部分的な加熱不足や過加熱による樹脂劣化を防ぐことで、膜厚全体にわたる緻密な溶融層を形成し、界面密着性を最大限に引き出します。
4. 施工工法の選定基準と品質管理
チラー配管の複雑な形状に合わせて最適な工法を選択し、確実な品質検査を行います。
配管形状別 施工工法の使い分け
- ■
エルボ、チーズ(分岐管)、バルブボディ、短管
流動浸漬工法(複雑な内外面・接合部へ1.0mm以上の均一厚膜を一括形成) - ■
長尺直管(内面)
静電粉体塗装 または 回転成形ライニング(管路全周にわたり安定した均一膜厚を確保)
出荷前の必須検査:「高電圧ホリデーピンホール検査」
チラー配管は一度埋設・敷設されると補修が困難です。施工後は全数に対し、膜厚に応じた適正電圧での「高電圧放電式ピンホール検査」を実施し、ミクロのピンホール(導通欠陥)がゼロであることを確認して出荷します。
5. 設備設計・保全担当者のための「選定チェックリスト」
チラー配管にポリエチレンコーティングを採用する際の最終確認項目です。
- 1.
流体温度は設計許容範囲内(常時60℃以下)か?
(温水併用のヒートポンプ等の場合は温度上限を確認) - 2.
接続部はすべて「フランジ巻き込みコーティング」が指示されているか?
(ねじ込み配管は端部防食が不完全になるためフランジ接続を推奨) - 3.
仕様書に「適切な下地粗面化(ブラスト処理)および均一熱融着施工」が盛り込まれているか?
- 4.
出荷前検査として「全数高電圧ピンホール試験」が義務付けられているか?
チラー配管における漏水・剥離は、適切な膜厚の選定と「フランジ端部の巻き込み」「強固な下地処理と均一な熱融着」を行うことで確実に防ぐことができます。規格に基づいた設計と確実な施工プロセスを標準化することで、長期にわたってトラブルのないクリーンな冷却循環システムを構築できます。